日本には世界に誇る様々な発酵食品がありますが、それら発酵食品の中でも最も中心的な存在といえば米糀ではないでしょうか。
糀菌にお米を食わせてできる米糀なくして味噌も醤油も日本酒も作ることはできません。そんな必要不可欠な米糀について学びに、また実際にその製造の体験に長野県木曽の「小池糀店」さんを訪問しました。
※一部内容に私の勘違いがあるかもしれません。あしからずご容赦ください
わごいちは毎年どこかに研修に行きます。一見整体には関係ないようなところが多いですが、「本当の仕事を作る・守る」という価値観を共有できるところには多くの学びがあります。
今回は小池糀店社長の唐沢さんがわごいちに施術を受けに来られたご縁から実現した研修です。
では早速中へ入りましょう。
(白いTシャツの方が専務さん。社長のお兄さんと二人で製造から販売まで切り盛りされています。他に作業を手伝うパートさんも数人います)
入ってすぐに販売コーナー。主力製品は味噌、米麹、そして甘酒
他のお店のコラボ商品もいくつかあります
小さいお店ですが、入れ替わりお客さんが来られていました。地元の人もいましたが私たちのように遠くから買いに来た人もいました。
「ではこちらにどうぞ」
と、販売コーナーの奥の扉の向こうに案内されて足を踏み入れると、いきなり工場。
山肌の崖に添うように作られている建屋は奥行きがせまく、縦長の構造です。
「ここでまずお米を蒸します」
おおーと覗き込む私たち。
大きな木樽の中には既に蒸されて湯気を上げているお米が。
「いつもは180キロ蒸します。今日は少なめで120キロです」
120キロいっぺんに投入しないで、4回に分けてだんだんと積み上げながら蒸していくそうです。
「均一に蒸すことが大事で、そのためには手間がかかりますが分けて投入する必要があります」
「蒸し米はやや硬めに。べちゃっと柔らかくなると後で混ぜにくくなります」
その意味が後ほどよく分かることになりました。
今どき木樽を作ってくれる職人もなかなかいないそう。
ひとつの伝統産業を守るためには周辺産業も共に守っていかねばならない。
そういう難しさもあるんです。
「じゃあ上に行きましょうか」
と専務さん。慣れた手つきでバケツに蒸し米を移し、肩に担いで石段を上がっていきます
写真でみるよりも急な石段をあがると糀室です。
糀室は日本酒の蔵にもありますが、昔は女人禁制、納豆食べたものも立入禁止。糀の発酵を阻害する汚れや菌が入ると商品が全滅するので、なかなか外部の人がはいることができません。
今回は社長を整体したご縁もあり特別に入れてもらえたのだと思います。
2階に上がるとすでにパートさんたちがお米を広げていました。私たちも教えてもらいつつ参戦。
確かにべちゃべちゃではだめだ。ここで硬い蒸し米の理由もよくわかりました。一粒一粒ばらけさせることが必要なのですね。
ここではお米と糀菌が主役です。お米が温かいうちに均等にばらしていかなくてはなりません。人間はお米様にあわせて働きます。
専務さんが何度も何度もバケツに蒸し米を担いで石段をあがってきます。重労働!
それをばらしてひろげて、和やかな雰囲気ながらも「時間との勝負」でした。
120キロの蒸し米がきれいにばらせたらいよいよ種付けです。
糀菌という菌(コウジカビ)をお米と一緒に混ぜながら表面にくっつけていきます。表面に着いた糀菌が菌糸を伸ばし、お米の内部に侵入し、糖質を分解していきます。つまり発酵ですね。
大事なことは一粒一粒にきっちり菌をくっつけること。付かなかったお米は分解されず残ってしまいます。
「米糀つくりは2泊3日です」
と唐沢社長さん。
つまりその間、蒸して、手入れ(まぜる)して、種付けして、寝かせて、また手入れして、また寝かせて、またまた手入れして、最後は製糀機で一晩寝かせて、完成!です。
その間ほとんど手作業!!
「うちは何でも公開してもらっていいですから」
と初めに言われました。ちょっとしたコツや配合、あるいはこんな温度管理ももしかしたら企業秘密ではと思ったけれど、
「同じように作っても同じものができないんです。その場所その場所、そこに住み着く菌によって発酵は変わってきますから、その場所にあう方法を見つけるしかないんです」
からだという自然本位の施術を志向するわごいちにはとてもよく納得できる話でした。
だいたい35度くらいからスタートして、最終的には40度ちょっとまで温度を上げていくのですね。
この日はここまでで私たちは終わり。
この後6時間後に社長さんが一人で全部をもう一度手入れしてまた積み直しをし、夜中に増殖させるとのことでした。
2日目の朝。「10時からやりますんで来てください~」
とのご連絡で再び小池糀店さんへ。24時間、糀菌が働き続けたお米たちを再び手入れしていきます。
手入れが終わったら写真の機械に通してより綿密にばらしていきます。
「この機械がはいって随分楽になりましたよ」
とにかく一粒一粒までばらさないといけないのです。そのために何度も手入れをするのです。
「ではこちらへ移しましょう」
機械でばらしたお米を写真奥に移動させます。
手前の台は底が木の板でしたが、奥は底が網になっています。その上に布を敷き、お米を乗せていきます。
この「製糀機」は下から風を吹き上げ、上部で吸い取って下に回しまた吹き上げる機械でした。空気を循環させながら、増殖に必要な温度や湿気をグルグルとお米の隅々に行き渡らせるのです。
充分に均一に全米粒に糀菌が取り付いた段階で、ラストスパートをかけるイメージでしょうか。
さらに一日たてば米麹の完成。切り分けて出荷されます。
小池糀店さんの米糀は生糀。乾燥糀は扱わないのかと聞くと、
「乾燥糀でもいいんですけど、やっぱり生麹の方が強いし美味しいですよ」
「結局、日本は流通の都合で食品が決められるんです。流通の上で扱いやすい商品が求められる。そうすると商品も変わってくるんです。でもうちはやっぱり生糀が良いと思うんで」
流通上便利なものにするために、味や安全が犠牲になるのが当たり前になっていることを今一度思い知るお話です。
このような感じで私たちわごいちの研修は貴重な体験を頂き終わりました。
糀菌という生き物が働きやすい環境を整える。ただ甘やかすだけじゃなく、糀菌自体も頑張らなくちゃという環境の中で、強い糀菌を育て増殖させていく。
そのためには糀菌の働きに人間が合わせなくてはならない。人間のスケジュールに合わせるために薬剤を使ったり、添加物を使ってコントロールしても糀菌は強く健やかに育たない。それはつまり糀菌本来のうまみが出てこないという事になる。
この話はすべて私たちのからだ、特に腸内細菌をはじめとした体内外の細菌たちとの向き合い方とまったく同じ話になります。
整体していてこのような話をできる機会はなかなかありません。菌を手で感じ、菌を活かす整体はまだまだ一般的ではないのです。
だからこそ、今回の小池糀店さんの仕事は私たちわごいちにとって非常に深い親近感と、またさらなる進化への手応えに満ちていたように感じました。
本当の仕事をしましょう。決して派手でなくとも、大規模でなくとも、与えられた環境のポテンシャルを最大限にいかすための仕事をしましょう。汗を流して手を入れ続けましょう。
あなたの心に響けば幸いです。
小池糀店の唐沢ご兄弟に感謝を込めて。
わごいち
三宅弘晃